揺れるカミングアウト

私はもうすぐ30歳になる。

 

親世代から見ると、結婚を心配される年齢だということは自覚している。

 

私は仲良い友達と兄弟にはカミングアウトをしている。

しかし、親にカミングアウトはしていない。

 

この前、父が東京に遊びに来た。

2人で焼肉を食べながら、やめたほうがいいと強く言ったにもかかわらず、ビールを頼み続ける父。

 

また結婚の話になった。

ひとりで生きるより、男女がつがいで生きることの心強さや、喜びを説く父。

私はひとりではない。彼女がいる。そして彼女との毎日の生活がとても楽しくて、幸せだ。こんな風に幸せがずっと続いたらいいなと思う。

 

何度も言いたくなっては、それを飲み込んだ。

親に言いたいという気持ちと、言えないという気持ちがシーソーの両側で重さ比べをする状況が、ここ最近ずっと続いている。

このまま両方の重さに耐えられず、真ん中でポキっと折れたら、どうなってしまうのだろう。

 

そんなことをぐるぐる考えながら、一旦トイレにたった。

父は、その間に会計を済ませてくれていた。

 

「気をつけて帰れよ。」

 

そういう酔っ払いの父の方が、ちゃんと帰れるか心配だった。

 

今日も言えなかった。

 

言えなかったのは、私が意気地なしだったからなのだろうか。

それとも、言いたかったけど我慢して言わないでいれたから、よかったということなのだろうか。

 

今の私にはどっちなのか、よくわからない。

 

小さくなる父の背中を見えなくなるまで見送ってから、彼女が待つ家へと歩き始めた。